「悪事を働く」なんですが、大変に興味深い形態をとっています。
目的格(ヲ格)をとっているので「働く」は他動詞的に機能しています(自動詞的に機能する場合は例えば「彼はよく頭ガ働く」=主格/ガ格)。一方で、「働く」には「働かす」「働かせる」という明確な他動詞の形も存在しており、かつ、「悪事を働かす」「悪事を働かせる」とはいわない。
試みに辞書を引けばこのパターンは目的語に悪の名のつくものばかり。盗みを働く。悪事を働く。乱暴を働く。新明解には「反社会的なことを」なんて書いてある。
*
慣用表現といってしまえばそれまでのこと。けれど、気になる存在です。「時をかける少女」の「かける」が近いのかな――弱い気がする。「駆ける」だし、「架ける」だし。どちらも他動詞が前面に出てくる。
抽象化すると、「何々をうにゃうにゃする」の形をとり、「うにゃうにゃする」の辞書記載の用法の8割がたが自動詞であるようないい回し、他にあるでしょうか。
*
ところでまけもけさんの返事の「はい」がかわいいですよね。こういう、反逆や悪事の精神のあり方でいたいと僕も常々、思います。
*
おまけをもうひとつ。働くは「ニ(かたかなのニ)格」もとって、文法をやる人にはなじみがあるかと。「この動詞は四段ニ働く(=活用する)」なんていいます。