illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

萌えると推すの間

めんどくさいので自分とこ以外のリンクは貼りません。

dk4130523.hatenablog.com

ハ行上二段活用動詞「恋ふ」の助詞は、6-7世紀およびそれ以前は、「に」だったろうといわれています。それが8世紀ごろから助詞「を」を伴う用法が次第に一般化してきた。自動詞から他動詞への転換です。

ひとくちに、上代(奈良)では「君ニ恋ふ」であり、平安以降は「君ヲ恋ふ」だったというのが大野晋の示した見取り図です。

君に、胸キュン。-浮気なヴァカンス-

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あるいは「君(ガ)恋し(い)」。昔の人(奈良平安の人のことです)はやたらと「ガ」を使ったりはしません。意識の働きは、「君がいて」「恋しいと思う」この2つの間には自然な断絶、非連続があります。

君恋し

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要するに対象をどうこうするという主体の意思は、恋とはちょっと(大いに)違うものです。対象をどうこう(しようと)する恋は、私にいわせれば、露骨な性描写です。

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ともあれ、このように、人々の意識がことばの用法を変えていく、それに呼応して地層のほうも変わっていくのは、100年とか200年とかあるいはもっとそれ以上の時間を要します。

大野先生の描く見取り図って、ある程度、勉強を進めて初めて気づくことなのですが、このように壮大な視角とダイナミズムがあるんですね。

ちなみに、「恋ふ」とは、異性を慕わしく思う意識の働きです。慕う、懐く、請(乞)う(ここにいてほしいと願う)。願うなんかもそうで、願うって、誰にします? 相手にですか、天にですか? 私は、願いは天にするものと思うほうです。

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で、だ。好きなものをむやみに推したりするなよ、おまえら。

アイドルは天降ってくるものでしょう。だからそこに、慈雨が生まれ、「尊い」「ありがたい」という感じ方が生まれる。私もたまには大きすぎる主語を用いてみたいことがあります。日本人の感受性の基底には、古来「自然(ニ/ナ)」と「受動」が、分かちがたく、ある。

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萌えるは、自分たち「おたく」が狩猟/動物の側にはなく、慈雨を受ける受動/植物の側にあることを、本能的かつ本質的に捉えた絶妙の語法でした。ただ、萌えて兆すだけです。あー、きもちわるい。草不可避。しかし、単に萌えているぶんには、アイドルを傷つけることはありません。草食で何がわるい。

推すなんて能動をいいだしたら、「つながる」(まだいい)「アイドルをハントする」(だめでしょう)まであっという間の地続き。それが、いま私たちの視界をかすめる、地獄の一形態です。

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(公開後の追記)

君が好き

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