illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

「復活の日」準備日記#0031 映画「イエスタデイ」を見るのこと

タイトルの型はもちろん黄金頭さんです。

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sukekyoさんというわるい人と、彼の愛する愛くるしいワンちゃんがいて、彼らふたりが推すマンガ作品《の健全なもの》は、できるだけ読むようにしています。すごいレビューを書かれる。これ以上は触れずに内緒にしておきたい、読みの巨匠のひとり。

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それでさっそくAmazonプライムで見ました。

イエスタデイ (字幕版)

イエスタデイ (字幕版)

  • 発売日: 2020/04/08
  • メディア: Prime Video
 

よかった。途中いくつかの箇所でガン泣き。もちろん、見ていて、あるいは見る前から、ビートルズファンには受けない(反発の大きい)映画だろうとは予期していました。途中から、 ヒメーシュ・パテルとリリー・ジェームズのストレートなラブ・コメディで幕引きが来るのだろうという予感もひしひしと来て、でも、やっぱり泣きます。泣いている自分が画面の前にいるわけ。

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で、いったん逸れます。まずは優れたレビューをお読みください。

はてなでも数人かの方が本作について述べていらっしゃいます。その中で、僕はこの id:tetragon64 さんのものが最も冷静に、ビートルズへの愛をもって痛点を突いていると感じました。

tetragon64.hatenablog.jp

僕も、下手な手付きで山際淳司海老沢泰久の作品に手を出すオマージュにはいちいち噛み付いて、こき下ろしています。ましてビートルズですから(対象への愛の前には、クリエイターのレジェンド度合いがどれほどかは関係ないにしても)、《世界一のビートルズ・ファン/マニア》でしか、本来なら手を出していけない世界、それをある意味、雑に手を伸ばしたことへの呆れ(おいおい…)(ま、あるよね…)や憤りは、それなりにわかるつもりです。

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さて。少し自分語りをします。僕の力点の、前提になるのでやむを得ません。

僕の別れた妻の姉が大学でビートルズ研究会に入っていて―こう書くと Beatles 研究会と訂正されるわけですが―、僕も他所様と同じかそれ以上に薫陶を受けた口です。戦後史や戦後ノンフィクションのアマチュア愛好家として、通らないわけにはいかない。

それに関していえば、僕は山際淳司海老沢泰久という戦後日本の育んだ、そして亡くなった、ノンフィクション・ライターの超絶なマニアであり、山際さんが1995年に、海老沢さんが2009年に亡くなってから、《僕のためにスポーツ・ノンフィクションを書いてくれる人は、もういないのだ》という思いを絶賛抱えて拗らせて、泣いてばかりの日々が25年続いている昨今です。

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以上を踏まえて、2点、伝わるものがあったということを書いておきたいと思いました。その第1の点は、僕が山際さんの文体模写をして自分を仕方なく、慰めるように本作の監督ダニー・ボイルと脚本のリチャード・カーティスは、他にやる術を持たなかったのではないかということ。

その、愛が、これはビートルズの曲あってこそなのでしょうけれど、とにもかくにも、えっちらおっちらでも、序盤の Yesterday から、エンドロールの Hey Jude まで、ちゃんと持続している。tetragon64 さんも言及されていますが、作中ベストは Help! だと僕も感じます。加えて、The Long And Winding Road が(僕には)心地よかった。

逆説的ですが、厚みにやや欠けるところのある脚本だから、かえって、楽曲のよさが際立った、そんなふうにも思います。

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第2点は、賛否分かれると思います―海辺に住まうハーフロン毛・白髪丸メガネの元船員老人(78)です。僕も、多少や書き物や歌をやりますが、大好きな、亡くなった人を作中にどうにかして召喚するというのは、クリエイターの特権と思います。僕はよかったと思います―あの映画中のベタさ込みで。老人を抱擁して、 ヒメーシュ・パテルの顔つきが変わり、立ち直るでしょう?

あれは、監督のダニー・ボイルが、「ごめん。おれこれどうしてもやりたかった。ごめん」って。でも、描くことで、ダニー・ボイルと脚本のリチャード・カーティスは、在りし日の Beatles との「別れ」に、ひとつの形として決着を付けることができたんじゃないかな。(そうはいっても、微妙だよね…)

かくいう僕は今でも、山際淳司海老沢泰久に、会いたい、会うことができたなら、と思っています。我が身を重ねて、涙がこぼれました。僕も、ハグすると思う。

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さておしまいに、演技のこと。これは、エド・シーランじゃないかな。怪演といっていいかもしれない。それと、ずーっと、またたく間にスターダムに駆け上がりつつも、冴えなさと幼さを表情に残す役作りを通した、 ヒメーシュ・パテル。BBCイーストエンダーズは僕もずいぶん前に英語の学習を兼ねて見ていた時期があり、彼には見覚えがあったので、何というか「いい味が出てきたなあ」などと、懐かしい気持ちにもなったのでした。

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また見るかといわれたら、楽曲と、細かい英語のくすぐりを確かめるのに、たまに見るかな、くらい。繰り返すようですが、楽曲がいい。当たり前のことを述べてしまいました。以上です。