北海道(北青森以北)弁のひとつとして比較的知られたものに、自発の助動詞「さる」「ささる」があります。
しかし、これは北海道だけのいいまわしではなくて、昭和50年過ぎの栃木宇都宮でも、少なくともわが家では自然に聞かれていました。
「ほら、ここに抱っこささるかい?」
うちのばあさんがまだしっかりしていたころ、ソファやベッドに腰をかけて、自分の膝上や、胸元の、空いたところを軽く手で叩き、床のねこをまねく。そんなときに「だっこささる」というフレーズを用いていました。
「抱っこ」という状態になる、自然な状態遷移を感じさせます。と申しても、ことば、特に助詞や助動詞は、文法説明よりも先に、(意味や解釈以前の)実際の使用体験がくるので、伝わらない方には伝わらないだろうと思います。それはそれでいいのです。
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今日、家でデスクワークをしていて、くーちゃんがこっちに歩み寄ってきました。「ふにゃふにゃ😺」と鳴いていたので、「おいで」と声をかけ、
「くーちゃん、ほら、ここに抱っこささる? 来るかい?」
と、思わず口をついて出たときには、いつものように頭を抱えました。
くーちゃんは(抱っこささることなく)下僕のふくらはぎに「すりすり」をして、満足すると、お水を飲んで(くーちゃんの水なので「お」が付きます)、ロフトへと上がっていきました。
「抱っこささる」の含みですら、私は次の世代に十分に伝えることができません。何のために国文法を学んだのか、ねこさまにすがるよりほかにありません。申し訳ございません。