魅力的な冒険家・探検家が登場するフィクションを紹介してくださ… - 人力検索はてな
ありがとうございます。お呼ばれにあずかったのでお答えします。魅力的な冒険者/探検者(フィクション)とのことですので、もちろんフィクションを中心に、ただし虚実の皮膜を外れる用意も十分に、できるだけの言い訳を添えて紹介します。
日本三文オペラ(開高健)※まくら
敗戦後の大阪の焼け跡に暮らす、ホルモンと鉄を喰う人々「アパッチ族」。手引きのフクスケに連れられて、鬱を病んでいた開高健は工廠の匂いをふんだんにのこすホルモン街に潜入取材をし、命の洗濯をする。その取材の結実が本作。都市冒険譚の傑作。開高健の中では「闇三部作」に並ぶ名品であると思う。
日本アパッチ族(小松左京)※まくら
同じ大阪の焼跡に小松左京が潜入するとこうなる。開高オペラが緊密を指向するとしたら小松アパッチは流転と眩暈の彼方を目指す。そんな文体。鉄を喰う人々の世界の冒険譚であり創世記。好みの問題だけど、完成度は開高さんのほうがいくぶん上かな。でも繰り返し手にとってしまう。
復活の日(小松左京)※この辺から本気
その小松左京が細菌兵器によってほとんど死滅した地球の将来を草刈正雄に託した角川の大作(なんだそりゃ)。南極観測隊員として昭和基地で仲間とともに命拾いをした草刈は、いろいろあってICBMと中性子爆弾が炸裂する危機に直面した「元」文明の大陸に往き、そこで任務を果たすと、南への帰還を目指す。角川映画もいいけれど原作をぜひ味わってほしい。赴く前の晩にサメ肌のおばあちゃん娼婦に抱かれるシーンが個人的にはクライマックス。
そして草刈を見よ。狂気とのぎりぎりのせめぎあいの中、いままさに帰還を果たそうとし、抱きかかえ、迎えられる彼のシルエットはイエス又吉である。探検者の名にふさわしい。
復活の日 Virus ラストシーン(2) - YouTube
川口浩探検隊シリーズ※色物
草刈から川口に転じる。川口浩は実在の俳優。だが探検隊はフィクション。80年代の俺たちにその理由を知らしめ震撼させた嘉門達夫と「オレたちひょうきん族」には厚く御礼を申し上げる。

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ゆけゆけ川口浩 (Yuke Yuke Kawaguchi Hiroshi) - YouTube
「月山」と森敦※本気なんですけど
昭和49年の芥川賞作品。「月山」で芥川賞は歴史的使命を終えた。それはいいとして、冥界月山に入り込み、惑い、女に惑わされ、夢うつつでカメムシと遊び、そして現実に引き戻される「私」。まとめサイトでいうところの異世界に男は間違いなく紛れ込んでいる。全編を通じて呪術のような美しいことばによって月山、そして出羽三山の山並みが幾層にも織り成され、描かれる。俺は山登りのような面倒は嫌いだが「月山」にはほとんど毎年登る。
解説が小島信夫というのがまたいかにも似つかわしい。名文ぞ。ちなみにこの奇跡のような作品を世に出したのが若き日の柄谷行人。彼がどんなにすぐれた批評をしようとも、「月山」の発見者としての名誉のほうが先行する。90年代半ばまで柄谷の著作に付き合って別路線を選んだ俺だが、そう思っている。
宮本常一「土佐源治」と女ったらしの爺さん※わりと本気なんですけど
民俗学的興味でいえば、土佐の山奥にいる盲(めしい)で博労の女ったらしいのこの爺さんと、爺さんに取材をし、嘘と真を織り交ぜて名作に仕上げた宮本常一の冒険心にも敬意を表したい。「月山」よりも現実味を帯びるが、本作もまた異世界と冒険譚に近接する。ちなみに「遠野物語」は好物であったが、近頃は柳田の爺さん(國男)の正統さと隙のなさが胃にもたれる歳になったので今回は紹介しない。俺のデスクトップは一時期、カッパ淵の写真であった。
宮本常一 ――歩かなければ見えないもの【連載第一回】|本のなかの旅|本の話WEB
Cocco「強く儚い者たち」※BGM
だけど飛魚のアーチをくぐって
宝島に着いた頃
あなたのお姫様は
誰かと腰を振ってるわ
たとえホントのことでもそういうことを口にしちゃいけませんと母ちゃんから習わなかったのかねまったくこの天才は。

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谷川俊太郎「さようなら」※朗読
ぼくもういかなきゃなんない
すぐいかなきゃなんない
どこへいくのかわからないけど
同じ旅出をとりわけ母親への憧憬を軸にして少年の側から描くとこうなる。そりゃ女の現実に敗北を喫するわけだ。ところで冒険者はだれにさよならをしてどこへいくのか。だれか教えてはくれまいか。
丸谷才一「笹まくら」 ※真打/主任(トリ)
真打は/遅れたころに/やってくる(談志)。
これはすごいよ。かつて徴兵忌避をした大学職員がふとした瞬間に、ちょっとこう力を入れたり、抜けちゃったりすると、20年前の戦中にタイムスリップする(ちなみにしがない職員の現名は浜田。逃亡時の偽名は杉浦。あんまり関係ないけど)。ジョイス「意識の流れ」と丸谷先生の日本語の表現技法が手を携えて高みに上り詰めた感じがする1作。浜田/杉浦は一般的な意味の冒険者ではないかも。
でもね、ゆっくりゆっくり、文体に乗る/乗せられるようにして、味わうといいよこれ。戦争中に兵隊にとられるのがいやで人格を消して逃避行する。なんてすごい着想。そして流転。よく生き延びたなしかし。ラスト数頁が圧巻。なんだけど、そのようなレビューはどうかいったん頭から追いやって。確かにすごいはすごいんだけど。全編の行間から「戦中戦後」という悲しい男の冒険の匂いが漂ってくる。あはれなり。
児玉孝也「司王国」※自薦ステマ
終戦直後の日本には「司王国」という独立国家があった。熊沢天皇じゃないよ。20年後に、その幻の場所を訪ね歩いた夭逝したノンフィクションライターがいた。うそだろって、さっきからうその話をしてんじゃねえか(志ん生風に)。
児玉隆也のこと/上川でもゆういでもない件 - illegal function call in 1980s
次点としては「おろしや国酔夢譚」および「敦煌」。落選理由はともに(作者から)学校教科書と文化勲章の匂いがすること。それからヴェルヌ「2年間の休暇」。こちらは十五少年漂流記か地底旅行がくるだろうとの予測。
ほんとにキテタ━(゚∀゚)━! うれしいw
ほかに藤子不二雄「みどりの守り神」「ドラえもん のび太の宇宙開拓史」(81年のオリジナルのほう)かな。ロップル君とチャーミーと畳とかもう号泣ですわ。板子一枚下は海か地獄か。畳一枚下は遠い星。ないかなあ、そんなの。ねえだろうなあ(談志)。
こんなところで。お粗末さまでした。楽しかったです。またどこかの旅の酒場でお誘いのほど。