illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

譲渡会で狙ったねこちゃんを確実に譲り受ける方法

かれこれ2か月前、お手伝いをしているねこちゃんの譲渡会で、こんなことがありました。

学校の先生とおっしゃる、僕よりも失礼ながらお歳は上の、品のいい女性の方です。

「あの…ちょっとお伺いしますが」

「はい」

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譲渡会は、隔週、東京メトロの都心の駅近くの貸事務所で行われます。小中学校の教室1部屋分くらいのスペースに、コの字型にテーブルをセットし、その上に布と、ねこちゃんのケージと、中に入ったねこちゃんと、お水と、ご飯と、トイレと、興奮しないための目隠しを用意します。10時半開場、15時まで。ねこちゃんは、ケージに平均2人くらいかな。ケージは20個くらい。1回の譲渡会でおよそ40人のねこちゃんがデビューします。そこに、僕のようなボランティアのスタッフが10人くらい。受付と、質疑と、申し込み手続きを行います。忙しいときには、お昼を食べる暇もないくらい。

それから、譲渡会の開催日以外には、バックヤードで、里親募集サイトへの登録や、ウェブサイトの更新、ねこちゃんの捕獲、ミルクボランティアさんのアレンジ、お届け、いろいろとやることがあります。

*

「わたくし、教師を務めております」

「はい」

「まもなく夏休みで、日中、ねこの面倒をみる時間が増えると思うんですね」

「はい」

「以前にも、こちらの譲渡会に何度か里親の申し込みを行ったのですが、選に漏れてしまい」

「はい」

「何度か通っているんです。それでね、どうしたら、お申込みの確率が上がるのか、教えていただきたいんです」

「はい…何かこの、必勝法のようなものがあるかというご相談ですね」

「必勝法というか…だってね、あなた」

「はい」

「こちらの会には、何度か電話を差し上げて、このねこちゃんがほしいからと、意思を伝えているんですよ。それで足を運んでも、決まって抽選で外れてしまうんです。何かこちらに非があれば直しますけれど。それを教えてほしいんです」

「それはお手数をおかけして、申し訳ありません。ご説明します」

*

各回の約定率は、4割くらいでしょうか。選考プロセスは、次の通りです。

  1. 気に入ったねこちゃんがいれば、その場で申込書類にご記入いただきます。住所、氏名、年齢、連絡方法(電話番号、メールアドレス)、家族構成、部屋のおよその間取り、ねこちゃんの飼育経験、ご実家など、万一の場合の連絡先。避妊/去勢/注射などの費用負担は、相談させてください。
  2. 開催時間内に1人のねこちゃんに対する申し込み件数が上限に達した場合、スタッフが、「譲渡決定」の札を立てます。ですので、もし「どうしても」というねこちゃんがいる場合には、朝いちばんで来ることをお勧めします。
  3. 開催後、選考を行います。基準は、僕がお手伝いをしている会の場合、保護主さんの意向を優先、その上で、ベテランスタッフさんの意見を聞く、合議制が基本です。
  4. 選考の結果、お譲りしたいと考えた場合には、土曜日に開催した譲渡会の翌週前半に、電話かメールでご連絡を差し上げます。残念ながら落選の場合には、連絡は行きません。
  5. 以上では、肝心のことが説明になっていませんね。僕の場合、選考基準は4つです。(1) 今後20年にわたって、毎月1~2万円のねこちゃん支出が可能か。(2) 身なりは清潔か。(3) お家が、ねこちゃんのお世話をするのに必要十分な広さであるか。(4) 総じて、愛情を注いでくださる方か。
  6. ちなみに僕の場合、比重は、(4)が圧倒的です。極端なことをいえば、いま、お金がなくても、ねこちゃんとともに人生をやり直したい。貯金をはたいて引っ越しも辞さない。どうしても、この仔がいいんです、といわれたら、親身に考えます。ただ、お届け&お住まい確認は必須ですよ。虐待する不心得者がいるからね。その点はすまない。悪気はないんだ。
  7. 独身の単身男性だとか、日中不在の時間が多いだとかは、はっきりいってどうでもいいです。ではなぜそれが一般に条件の上位に来るようにいわれるかというと、そんなこともかいくぐれない連中を足切りするためです。日中12時間不在なら、残りの12時間をねこちゃんに捧げればいい。接待で遅くなったら土日は終日お世話ですよ。たりめえじゃねえかw

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しかし、ここまで、件(くだん)の先生には、お伝えしませんでした。1.から4.まで、だったかな。それで、上の5.(4)に重なりますが、俺がいちばん重視するのは、このねこちゃんのためなら、世界線、時間線を変えてもいいかってことなんです。確率で勝負しようとする人は、世界線、時間線を変えないことが前提です。経済基盤の話なら、それでいい。

でも、と思うんです。不慮の事態になったときに、例えば仕事をちょろまかして、ねこちゃんを病院に連れていくことのできる人だろうか。先生には、そこのところをアピールしてほしかった。

*

「ご存じと思いますが、ねこちゃんは幼いころは何かと体調を崩しがちです。万一、病気にかかったときは、どうなさいますか」

「同居の娘がおります。彼女に、病院に連れていってもらうので大丈夫です」

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正しい。でもね、先生。俺はそこで躊躇してほしかった。自分の手でどうするか。考える、間がほしかったんです。全体からくる、模範解答臭のようなものを察知して、俺はこちらの方には今回あきらめていただくことを、譲渡会のベテランの方には申し送りました。

「あらー。ずいぶん丁寧に対応して。だめよだめ、あの方じゃ。ねこちゃんと付き合うようなタイプじゃないわ。見た瞬間にわかったわ」

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人の気持ちに、穴が空いているでしょ。ねこちゃんは、身体がやわらかいから、そこに、もふもふって、すっぽり身を収めてくれます。すごいよね。でも、そのとき、できれば「でもさ」って、立ち止まってほしい。ねこちゃんの気持ちにだって、穴が空いているかもしれないよ。それをできれば、埋めてあげたい。人は身体が固いからね。どうする。


岡村靖幸 Lovin' you

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あー、でなんだっけ。「譲渡会で狙ったねこちゃんを確実に譲り受ける方法」。

譲渡会ボランティアに都合8回、4か月くらい通ってみればいいじゃん。