那覇空港に降り立ってANAの搭乗口を背にし、ショップが並ぶほうへ歩いていく。
その一角に、回転式の小さな書架に「沖縄文庫」シリーズを詰め込んだお店がある。うまいところに陳列してあって、なんというか、通りすがりの目を引くのである。
沖縄文庫は都心では普通には見かけるケースは少ない。それが、那覇空港のこのお店、あるいは那覇/石垣市内の商店街に鎮座する書店には、けっこうな割合で充実したシリーズを目にすることができる。
緑色の装丁に赤のラインが印象的な、中公新書サイズの文庫。90年代、琉球民俗学を愛好するアカデミズムの間ではひるぎ社のOKINAWA BUNKOと呼ばれていた。
近年は政治的な色合いを強めたタイトルを多く目にするようになった気がする。それでも、まずはラインアップを見てほしい。
「歴史」「文化・食・生活」「経済」「芸能」「空手」(!)「神社・建築・庭園」の6ジャンルで相当の点数が出版されている。琉球/沖縄にとって、政治とはすなわち歴史性であることがよくわかる。本来、そういうものであろう。土着が解体された都心の政治なるものに対し一向に共感できない理由が、沖縄を訪ねると、とてもよく実感される。
実はこの沖縄文庫、危機的な状況にあったらしい。今回、検索して初めて知ったので、確かなことはいえない。俺の手元にも、まだ5冊しかない。
秋山さんは「昨年10月に初めて『おきなわ文庫』と出合いました。空港の土産品店にこの緑の表紙の文庫が並べられていたんです」と、その“歴史的瞬間”を回想。その後、「おきなわ文庫」を調べていく中で「そのポテンシャルの高さと、世の中からなくなっていく現状を知りました」と、この文庫の置かれていた状況を知った。
俺か。
状況論はひとまずさておき、やはり名著は、「近世沖縄の肖像」「近世沖縄の素顔」「八重山島社会の風景」だろうか。沖縄石垣を訪ねるたびに厳選して買い求めてきているので、まあ間違いはないだろう。
「近世沖縄の素顔」(田名真之)は、Amazonでは取り扱いがないようだ。
八重山・島社会の風景 (1982年) (おきなわ文庫〈2〉)
- 作者: 真栄城守定
- 出版社/メーカー: ひるぎ社
- 発売日: 1982/09
- メディア: ?
- クリック: 5回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
田名(1998)以外の2作(沖縄文庫は1982年の創刊)は、いまから30年以上前の著作であるため、内容は古い。だがそんなことは関係ない。近代以前の琉球はこのような姿をしており、それが戦後の沖縄ネイティブの知識人にどう映り、彼らがそこにどのような像を捉えたかを知ることは、まさに琉球思想史である(と、俺は思う)。
目取真俊は、政治活動よりも、山羊と並んで地霊の声に耳を傾けることを選び続けるべきだった。なぜ、いつから、この光景が都心では見ることができなくなったのか。なぜ、八重山ではいまでも見ることができるのか。その1点に立ち止まり続ける可能性が、初期の目取真作品からは感じ取ることができた。救いようのない近年の芥川賞受賞作家(例、綿谷、又吉)の中では、だいぶまともだといえる。
波照間 お墓を守っているヤギさんズを1枚だけ失礼しました。子ヤギさんはつながれていないようです🐱 pic.twitter.com/dcDknzXYAi
— nekohanahime (@nekohanahime) 2015年12月30日
沖縄文庫96冊。1冊平均900円として、8万6千円。大人買いしようかな。出来れば、電子書籍でなくて、紙でほしいんだけどね。
目取真俊は、読むならこの2冊、入りやすさからいうと「魚群記」かなと思う。
ちなみにひるぎとは、ヒルギのこと。マングローブを構成する常緑樹。ハイビスカスよりも、より土着した、八重山の原風景のひとつではないかと個人的には感じている。
なんくるなく、ない―沖縄(ちょっとだけ奄美)旅の日記ほか (新潮文庫)
- 作者: よしもとばなな
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/03/28
- メディア: 文庫
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (43件) を見る
ときに、ばなりん先生のこの著作、Amazonレビューは辛口のものが多いが、許して差し上げてほしい。