公開後の追記(3:00-9:00の間→緑色)
この記事は、「これはなぜかな」「どうしてなのだろう」という素朴な疑問に端を発したものにすぎません。末尾の「付随的な考察(7:00頃追記)」もよろしければ。少しだけ議論の深まりを期待します。
出典
魚拓
今北三行要約
大会組織委員会の森会長謝罪表明(「東京2020大会と男女共同参画(ジェンダーの平等)について」)は日本語版と英語版とで看過できない差があることがわかりました。末尾1/3辺りから大づかみにまとめてありますので、お急ぎの方はGO TOそちらで。
段落別対比
1
(組織委原文/日)弊会の先週の森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました。
(組織委原文/英語)On recent remarks made by President Mori, he commented on Thursday:
(当サイト戻し訳)先般の自身の発言について、森会長は木曜日に次のように述べました。
2
(組織委原文/日)弊会の先週の森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました。
(組織委原文/英語)"My recent remarks at the JOC Council meeting were inappropriate and also contrary to the Olympic and Paralympic spirit. I deeply regret my comments and would like to sincerely apologise to anyone whom I have offended."
(当サイト試再訳)「私が先般のJOC評議会で行った発言は不適切なものであり、また、オリンピック並びにパラリンピックの精神に反するものでした。私は私の発言について深く後悔しています。また、私の発言により気分を害してしまったすべての方に、心よりお詫び申し上げます」
3
(組織委原文/日)「多様性と調和」は東京大会の核となるビジョンの一つです。ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります。
(組織委原文/英語)なし
(当サイト戻し訳)なし
4
(組織委原文/日)私どもは、改めてビジョンを再確認し、引続き、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを尊重し、讃え、受入れる大会を運営します。
(組織委原文/英語)Tokyo 2020 reaffirms our visions, and will continue the Games operations with the aim of improving a society, respecting, celebrating and embracing the variety of individuals and diversity: dimension of diversity includes race, ethnicity, gender, sexual orientation, languages, religious or political beliefs or impairments.
(当サイト戻し訳)2020年の東京大会は、私たちの諸ビジョンを再確認するものです。そして、「社会をよりよいものとし、多様な個人と多様性を尊重し、祝福し、受け入れる」という目標の下に、大会運営を継続してまいります。ここでいう「多様性」には、人種、民族、性別、性的指向、言語、宗教的または政治的な信念、ないし障碍(の有無)が含まれます。
5
(組織委原文/日)ビジョンを追求しながら、多様性の調和、持続可能性、復興に重きを置き、大会後の社会の在り方にもレガシーを残すように取り組んで参ります。
(組織委原文/英語)We pursue our visions putting importance on unity in diversity, sustainability and recovery: we are determined to work continuously in order to leave legacy for our society.
(当サイト戻し訳)当組織委員会は、多様性、持続可能性、そして復興の下での団結を重視した諸ビジョンを追求します。それによって、私たちの社会のためにレガシーを残す継続的な活動を行う(固い)決意をしております。
6
(組織委原文/日)引き続き、コロナの感染状況にも注視しつつ、対策に万全を期し、安全安心第一の大会とするべく準備を進めて参ります。
(組織委原文/英語)Our top priority is to ensure safety and to make all the stakeholders feel secured. We stay mindful of the development of the situations surrounding COVID-19 and will work on our preparations to take all possible measures.
(当サイト戻し訳)当組織委員会の再優先事項は、安全を確保し、すべてのステークホルダーの皆様に安心していただくことです。COVID-19を取り巻く状況の進展を常に意識し、あらゆる手段を講じて、準備を進めてまいります。
全文一式での対比
タイトルと、上の青字(ICOならびに国際社会向け)部分をつなげると以下のようになります。青を黒に戻し、以下では相互の特徴的な違いを赤で示してみます。
組織委原文/英語を当サイトで日本語に戻し訳したもの
先般の自身の発言について、森会長は木曜日に次のように述べました。
「私が先般のJOC評議会で行った発言は不適切なものであり、また、オリンピック並びにパラリンピックの精神に反するものでした。私は私の発言について深く後悔しています。また、私の発言により気分を害してしまったすべての方に、心よりお詫び申し上げます」
2020年の東京大会は、私たちの諸ビジョンを再確認するものです。そして、「社会をよりよいものとし、多様な個人と多様性を尊重し、祝福し、受け入れる」という目標の下に、大会運営を継続して参ります。ここでいう「多様性」には、人種、民族、性別、性的指向、言語、宗教的または政治的な信念、ないし障碍(の有無)等が含まれます。
当組織委員会は、多様性、持続可能性、そして復興の下での団結を重視した諸ビジョンを追求します。それによって、私たちの社会のためにレガシーを残す継続的な活動を行う(固い)決意をしております。
当組織委員会の再優先事項は、安全を確保し、すべてのステークホルダーの皆様に安心していただくことです。COVID-19を取り巻く状況の進展を常に意識し、あらゆる手段を講じて、準備を進めてまいります。
組織委原文/日本語
これが、組織委の日本語原文(国内向け)だと次のようになっています。
弊会の先週の森会長の発言はオリンピック・パラリンピックの精神に反する不適切なものであり、会長自身も発言を撤回し、深くお詫びと反省の意を表明致しました。
「多様性と調和」は東京大会の核となるビジョンの一つです。ジェンダーの平等は東京大会の基本的原則の一つであり、東京大会は、オリンピック大会に48.8%、パラリンピック大会では40.5%の女性アスリートが参加する、最もジェンダーバランスの良い大会となります。
私どもは、改めてビジョンを再確認し、引続き、人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを尊重し、讃え、受入れる大会を運営します。ビジョンを追求しながら、多様性の調和、持続可能性、復興に重きを置き、大会後の社会の在り方にもレガシーを残すように取り組んで参ります。
引き続き、コロナの感染状況にも注視しつつ、対策に万全を期し、安全安心第一の大会とするべく準備を進めて参ります。
読み取れる差分の要点
- 大会組織委としては、森喜朗会長自身のことばで謝罪したことを、国際社会にはアピールしたいが、国内社会には見せたくない。
- 大会組織委としては、ジェンダーバランスの施策目標値は、国内向けのエビデンスとして示しておきたいが、国際社会には見せなくていいと判断している。
- 大会組織委としては、大会レガシーの未来への継承は、国際社会には強い決意で示し、国内社会には控えめに示したい。
- 大会組織委としては、COVID-19対策等の安全安心は、国際社会にはステークホルダーのためと明言しておきたいが、国内社会には曖昧にしておきたい。
差分ではありませんが
- 果たして、気分を害した/しない(offend)の問題でしょうか。
- 全体に(日本語の特徴といってしまえばそれまでですが)主語が、そして目的語も、国内向けでは曖昧にされています。今回の問題はそれでいいのでしょうか。
- 「レガシーを残す」の目的が慎重にことばを選んだ恰好になっています。レガシーとは。
- 大会組織委員会さんは、今回の森喜朗会長発言の幕引きを、レガシーとして後世に引き継ぐご意向なのでしょうか。
総じて(まとめに代えて)
大会組織委の英語版を日本語に訳し戻したものが素直です。なぜ、差を作って公開したのか理解に苦しみます。私としては、《大会組織委の英語版を日本語に訳し戻したものにジェンダーバランスの施策目標値を加えたもの》が、国内向けとして最も意を尽くす形であると考えます。
付随的な考察(7:00頃追記)
- (A):森喜朗会長は、発言により、だれかの気分を害してしまったことに問題があると理解し、そのように表明しており、理解が動いていない。不適切の中身やオリンピックの精神に何がどう具体的に反しているかを、自分のことばで伝えていない。
- (B):大会組織委は、森喜朗会長のその理解を、この間に動かしたり、深めたりすることが、十分にはできなかった。
- (C):大会組織委は、これらのこと(A)(B)を公にすることを国内には避けたかった。避けるために、日本語版では載せなかった。一方、(B)は(B)であるとしても、森喜朗会長自身のことばを謝罪として、国際社会には表明しなくてはならない事情(慣行や上位組織との関係など)があった。
- (D):以上を斟酌した結果として大会組織委が用意した声明文は、英語版と日本語版とで、一見して明らかに全体の分量が違ってしまった。そこで、ジェンダーバランスの施策目標値に言及する部分を日本語版に加えた。
- (E):上記(C)(D)は弥縫策ながら、逆にいえば、大会組織委の中には、問題の本質を――問題を森喜朗会長とは違った、本来あるべきレベルで――理解している人が存在することを示唆する――忖度でもあり、苦心でもあり、バランス感覚でもあり。
本エントリー作成時のスクリーンショット
2021年2月8日2:40JPT
船橋海神