2015年6月、くーちゃんがうちに来てくれたとき、保護主さんから、ねこ風邪をひかせてしまったらしいという話を聞いていた。うちに来てくれてからもくーちゃんは、「くしゅくしゅ」していた。おれはとはいえ少し様子をみようと思い、くーちゃんにもそのように話しかけて、仕事に没入していた。
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うちに来て少しの期間、くーちゃんは目をすぼめて(今にして思えば)つらそうな感じを見せていた。「ねこは強い」という話しを聞かされてもいた。それらをひっくるめておれは、部屋の隅で身を固めるくーちゃんの頭をなで、「行ってきます」の挨拶をしているうちに、風邪がいつのまにか癒えるのではないかと思っていた。その辺りがおれの救いがたいところである。
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数日して、くーちゃんがよくなりそうにないので、週末、あわてて5週にわたって病院にお連れした。
通院初日、体温を測り触診をした主治医が、
「強いですね」
とつぶやき、頷いた。検査結果の数値は知らされなかった。
瞬間、おれはしまったと思った。その間、おれはどうやらくーちゃんを命の瀬戸際にさらしてしまっていたらしかった。
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乃木が、西南の役で賊軍に御旗を奪われて(1878)以来ずっと(1912まで)申し訳が立たない、いつ腹を切ろうかと思っていたそうである。漱石「こころ」にそう書いてある。
くーちゃんの、向かって右の目のめやにさんを見て、とって差し上げるたびに、おれは取り返しのつかないことをした、申し訳ない気持ちになる。くーちゃんが、おれに甘えてくれる理由がわからない。