ちょっと、補遺をします。
万葉集に紐を結ぶ、とある。当時、性の関係を持つ男女は互いの紐を解き、性行為に入って終わると紐を結び合った。この紐は夫や妻、あるいは恋人でなければ結んだり解いたりしない、貞操帯に近い意味を持っていた。現代において性は自由になったが、紐という制約が解けた分、情緒が失われた気がする
— 村西とおる (@Muranishi_Toru) 2017年7月21日
さすがだ。村西大納言。で、すぐに触発される船橋東人(あづま-びと)の私。
独り宿て絶えにし紐をゆゆしみと/せむすべ知らにねのみしそ泣く(中臣朝臣東人)
— nekohanahime (@nekohanahime) 2017年7月21日
(貴方を思い)一人寝ていたら不吉にも紐が解けてしまいました。(よもや心変わりの兆しかと不安に)声を上げて泣くばかりで他にどうしようもありません。お許しください。
# 男性→女性の歌です。太宰でもない
少し、間違えたな。やり直します。やっぱり俺は男だから(というのか)甘さがこういうところに出る。
歌を詠む平安貴族のイラスト(男性) | かわいいフリー素材集 いらすとや
- 独り宿て絶えにし紐をゆゆしみと/せむすべ知らにねのみしそ泣く(中臣朝臣東人)
(解釈)一人寝していると紐が解けてしまいました。(やはりそう(だったの)かと)不幸な思いに、しかし為す術なく、しくしくと泣くばかりです。
(訳注)独り宿は、「ひとりね」と訓じます。ひとりねというのは、ふたりで寝ることを自然と捉える、その欠落態。ゆゆし(み)は、現代語でもいう由々しい、あるいは忌忌しい。大変ショッキングであると。ねのみは、音のみ、です。ただひたすら声に出して。
- これ、ツイートでは違うように(例えば、男が旅先で詠んだように)解釈しましたが、こうしてみると、明らかに、別れた後の中臣朝臣東人の未練ですね。必ずしも撚りを戻そうと思っているのではない。単に、寂しさが出ちゃうんですね。同時に、一縷の、あわよくばの気持ちもある。つくづく、馬鹿な生き物です(褒めてます)。
対して、女のほうは一歩進んで終わった恋を対象化している節があります。
歌を詠む平安貴族のイラスト(女性) | かわいいフリー素材集 いらすとや
- わが持たる三相(みつあひ)によれる糸もちて附けてましもの今そ悔しき(阿倍女郎)
(解釈)私の手元には三本撚りの糸があります。それでしっかりと仕付けておけばよかったと、いまさらですが悔やんでいます。
(訳注)「ましもの」は、反実仮想助動詞「まし」(xxならよかったけどでも現実はyyだし)+逆説接続助詞「ものを」の古形「を」の欠落(ソウナンダケド。「仕付けておけばよかったのだけれど」)です。
「今は」に見える「は」は、別のときは違ったけれど、今なら、という含みです。つまり別れ話をしたときに「は」別れる気持ちを固めてそうしたけれど、貴方がそうおっしゃる言葉を聞いた今「は」残念に思います。(でも撚りはもう戻らない)というように、
- 阿倍女郎(あべの-いらつめ)は(貴方がそこまでおっしゃるのでしたら)残念ですと。でも、もう遅いんですと、いっていますよね。
この、男の側からしたら半歩に見える違い、しかし現実には半歩数歩どころか数百メートル遅れをとっている、機微。1,300年も前の歌。それがしかも時を超えて、判る。かいつまんでいえば、さいとう(id:netcraft3)[サイバーメガネ]、泣けよと。しかしとはいえ泣くなよめそめそするなよと。
ときにわが読者191人よ。ありがとうございます。内、読んでくださるのが1割の20人も有りや。その20人の中でおひとりでも週末に万葉のことをちらと思い出してくだされば、私の革命への願いは叶うのでございます。
みなさんどうか、週末はビジネス書など読まずに、万葉でも紐解いてみてください。
— nekohanahime (@nekohanahime) 2017年7月21日