私はいらちな性分なので、わりと早いうちに落ちの来ない話に耐えがたい。
いきおい、短編を、日本語で書かれたもの、好きな分野を題材にしたもの、やさしいことばで書かれたものを幼いうちから好んで読んできた。その代表選手が、なんどもなんどもなんどもなんどもいうようだが、山際淳司だ。
それで私がどれくらいいらちかというと「江夏の21球」は、いささか長い。私にとって手頃な長さは「12月のエンブレム」くらいである。あるいは『スタジアムで会おう』に編まれた、見開き2ページの、そのときどきの旬のスポーツの話題である。
すうっと入って、さっと読めて、きゅっと落ちる。山際さんって、いい人だなあと思う。それでめくる手が止まらなければ、文庫本1冊くらいは、わけない。
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95年に山際さんが亡くなったとき、インタビューやNHKで親交のあった王貞治が「スポーツは、感性」「山際さんはそのことを鮮やかに示してくれた」「山際さん、ありがとう」という帯を、角川の文庫(確か『空が見ていた』)に寄せていた。
その通りだと思った。才人は才人を知る。私も、いまでも、王さんと同じことを思う。
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それはそうなのだが、最近、自分でも断章を書くようになって思うのは、山際さんというのは実にサービス精神に富む人だったということだ。その、美点が、もっともよく、酒でいえば上善如水のごとく、一滴を誘うのが「12月のエンブレム」であろうと思う。
ぜひ、読んでみてほしい。なんどもなんどもなんどもなんどもいうが、読んでほしい。この結びの味のよさを、僕はうまく口にできたことがない。結びの情景には、そんなことあるわけなかろうと私の中の悪魔が囁かないでもない。だが、山際さんがいうのだから、むしろ十分にありえていい話である。
「ねたばらし」を、上の記事で少々行っているので、もしよければ。
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「あれは、ほんとうのことですか」
まだお会いできていない。しかし、松田明彦さんに会うことがかなったら、私はどうしても、このことを訊いてみたい。それから、藤田俊宏さんの思い出に話を移すことができたらと思っている。
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(サービス精神をお題に、マギー司郎の話から入ろうと思ったのだが、うまく入れなかったことは内緒だ。次回、再挑戦する。)
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(いま、羽田。これから福岡出張です。)