前回の続き。
ひとめ、mecab + unidic (古文版)優秀であることがわかった。
$ echo 契りきな片身に袖を絞りつつ末の松山波越さじとは |mecab
契り 動詞,自立,*,*,五段・ラ行,連用形,契る,チギリ,チギリ
き 助動詞,*,*,*,文語・キ,基本形,き,キ,キ
な 助詞,終助詞,*,*,*,*,な,ナ,ナ
片身 名詞,一般,*,*,*,*,片身,カタミ,カタミ
に 助詞,格助詞,一般,*,*,*,に,ニ,ニ
袖 名詞,一般,*,*,*,*,袖,ソデ,ソデ
を 助詞,格助詞,一般,*,*,*,を,ヲ,ヲ
絞り 動詞,自立,*,*,五段・ラ行,連用形,絞る,シボリ,シボリ
つつ 助詞,接続助詞,*,*,*,*,つつ,ツツ,ツツ
末 名詞,副詞可能,*,*,*,*,末,スエ,スエ
の 助詞,連体化,*,*,*,*,の,ノ,ノ
松山 名詞,固有名詞,地域,一般,*,*,松山,マツヤマ,マツヤマ
波 名詞,接尾,一般,*,*,*,波,ハ,ハ
越さ 動詞,自立,*,*,五段・サ行,未然形,越す,コサ,コサ
じ 助動詞,*,*,*,不変化型,基本形,じ,ジ,ジ
と 助詞,格助詞,引用,*,*,*,と,ト,ト
は 助詞,係助詞,*,*,*,*,は,ハ,ワ
EOS
[1]+ Killed mecab
$
かなり正しい。ほしい出力はこう。
単語 | 説明 | 対訳 |
---|---|---|
契り | ラ行5段活用動詞「契る」連用形 | 約束し |
き | 直接体験過去の助動詞「き」終止形 | た |
な | 強意/確認/回想の終助詞「な」 | よね僕たち(あのとき)(そうだ(った)よね) |
片身 | 名詞 | 互い |
に | 格助詞 | に |
袖 | 名詞 | 袖 |
を | 格助詞 | を |
絞り | ラ行5段活用動詞「絞る」連用形 | (泣きぬれた袖の涙を)絞り |
つつ | 反復継続の接続助詞 | ながら(なんども) |
末 | 名詞 | (あの有名な)末 |
の | 格助詞 | の |
松山 | 名詞 | 松山(を) |
波 | 名詞 | 波(が) |
越さ | サ行5段活用動詞「越す」未然形 | (決して)越さ |
じ | 打消意思の助動詞「じ」終止形 | ない(ようにふたりの愛は変わらない) |
と | 引用の接続助詞 | と |
は | 係助詞 | ね/なのになあ |
もちろん対訳はいらない。「説明」だけでいい。
【百人一首講座】契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波こさじとは─清原元輔 京都せんべい おかき専門店【長岡京小倉山荘】
*
なぜ品詞分解が好きか。俺にとって好ましいか。
それは、国語や古文の解釈の中で、唯一、数学に近いからです。忠実に処理を行えば、一意に解が定まる。収斂していく。品詞分解なくして、対訳は出ません。加えていえば、品詞分解は、訓練で、だれでもといったら語弊があるけど、多くの人は、できるようになる。苦手にする人が多いのは、教えるのがへただからです。俺はいい先生に出会ったんだ。えへん。
閑話休題。
それでだな、たとえば、この清原元輔でいえば、訳がいちばん難しいのは、実は「な」です。「強意」と「確認」と「回想」がある。強さの配合までは問わない。それは読み手にゆだねられていい。でも、「強意」と「確認」と「回想」があることを知ったうえで、俺なら、次のように、女々しく(いや、差別の意図はないぜw)、未練たらしく、処理する。
「(約束した)よね僕たち(あのとき)(そうだよね)」
うざい。実にうざい。女の心はとうに離れているんだってばよ。
でも、これはこうなんです。「よね」が確認。「あのとき」が回想。「そうだよね」が強意念押し。ふたりは、前に、契りを結んでいるんです。それを、いま捨てられる男がうまくいっていたころを思い出して泣くんですね。「末の松山」まで引き合いに出す。かあちゃんに駄々こねてるみたいだ。「なんども」泣いて誓いあったよね。ああそれなのに、それなのに。沢田知可子か君は。
うざい。沢田知可子じゃないよ。うざいほどの、清原元輔のリアリズム。すごいなあ。そのリアリズムに1,000年の時を越えて近接する実用的な道具が品詞分解であり。そしてこの感受性が娘に伝わり研ぎ澄まされると「枕草子」に結実する。だよね、id:kikumonagonさん。
311のことがあって、この歌はうかつに引き合いに出しにくくなりました。
でも仕方あるめえ。mecabを触っていたらこの歌がひょいと口をついて出たのよ。
*
さあ、このmecab解釈と俺の解釈をどうつないで、自動化し、精度を高めていくか。機械自身に高めさせるか。実をいうと、俺はその先に、もはやxxx(自主規制)勤めの身ではかなわねえが、いまひとたびの古文の授業をもがもが。
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いらすとの湧水は、これ。
【百人一首講座】みかの原わきて流るる泉川 いつみきとてか恋しかるらむ─中納言兼輔 京都せんべい おかき専門店【長岡京小倉山荘】
ううん、なんともいいお歌でござること。「い」音と「るる」と「き」音が絶妙のハーモニーを奏でておる。作者、藤原兼輔。紫式部のひいおじいちゃんね。
ダメ押しでいうけど、今回の2歌は、ふたりとも、男手です。おそるべし。
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次回は、もうちょいいろんなものをmecabに食べさせてみたい。ありがとう。
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追伸
清原のじいさんと藤原のじいさんの流れる涙に現代的意匠をあてがったものがこれである(俺解釈)。うむ。