枕
NHKで報道があったそうです。
気分が悪くなるのでみません。業者に対しても、しょせんは他人事のNHKに対しても、個人としてはこの問題をどうにかしたいという志をもっても組織として動く場合にはその志を疎外してやまない現代社会、その象徴をNHKに見てしまう自分に対しても。
加えて、一過性の提起は問題を解決しない。むしろ、精神衛生上は忘れたほうがいい。忘れていたとして、少しの気持ちと想像力があれば、番組を見なくてもこんなのは日ごろ見聞するところからわかる。
前提
代わりに、きょうは民間ねこちゃん保護シェルターの運営費用の話をします。こんなものと思って驚いてください。
立場を明らかにすると、僕は運営者ではありません。ウェブサイトと物資の方面からお手伝いをしている「広報担当ボランティア」です。100%無償です。持ち出しです。むしろ、運営者さん(シェルターさんと呼びます)の個人的な情熱に支えられ、引きずられ、僕自身も(いつでもシェルターに行けばねこちゃんに会えるという甘えに)寄りかかって動いています。それでもまあ、外側からも内側からもみていて、ある程度以上のことはわかる。
以下はシェルターさんから聞いた話が8割、僕自身の推定が2割です。
立地
東京都江東区。大島駅から徒歩15分。南砂駅から同じく徒歩20分。非NPO。
ねこちゃんの数
だいたい、常時30人。うち10人がシェルターで看取ることを半ば前提にした老猫、傷病猫。20人が動物愛護センターからの協力要請、引き出し、保護主さんからの預かり。この世界で回転率が高いといわれるこねこはほとんどいません。また、いたとしてもヤンキーとかシャーシャーとかです。
経費/月
家賃:57,000円(築35年、3LDK、60平米くらい)
電気代:10,000円
水道代:4,000円
食事代:15,000円
トイレ用品:15,000円
掃除用品:5,000円
雑費:5,000円
医療費:40,000円
人件費:10,000円
預かり収入:▲15,000円(1日いくらで、預かって面倒を見ているねこちゃんもいます)
合計:146,000円/月
これが、現在、シェルターさんの持ち出しです。行政による支援や助成は、主に不妊手術に対する個々のものがあるだけで、こうした民間シェルターの運営に対するものはありません。
加えて、お世話や面会対応の実働があります。医療費も、獣医師さんにずいぶん協力してもらっていると聞いたことがあります。こちらのシェルターの場合、老猫、傷病猫を中心に受け入れていることもあり、週1回の定期通院を行っています。医療費とタクシー代で、もっとかかっている可能性があります。
最近では、みなさまからの物資の支援をいただき、ずいぶん助かっています、ありがとうございますとのことです。
初期費用
敷金礼金不動産仲介手数料:わかりませんが5として約300,000円
ケージ:40個、1個1万円として400,000円
トイレ:50個、1個3,000円として150,000円
水のみ:50個、1個1,000円として50,000円
エアコン、洗濯機、大型冷蔵庫、棚、什器類:200,000円
ざっくり1,100,000円
内装工事費
わかりません。いちど比較的大がかりな内装工事を行っています。
ざっくり200,000~300,000円
ここまでのまとめ
都内23区内で民間ねこちゃん保護シェルターを運営する場合、
・初期費用:130万~140万円
・月額:15万円
の持ち出しが可能であり、月額は継続的に、また、物資はSNSを通じてやはり継続的な支援をお願いできる状況であれば、民間ねこちゃん保護シェルターを開設し、運営できる可能性があります。
無理です
いま、うそをつきました。会社勤めの傍ら、朝晩のお世話はどうする。シェルターに5歳で来たとしてねこちゃんの余命はざっくり12年。いちど開設して引き受けたら閉じられないよ。転勤は。家族は。だいたい自分の人生をそんなにねこちゃんが占めていいのか。自分にもしものときがあったら。もしものことがなくてもいつかはお迎えがくる。出口戦略はどうすればいい。
金銭的支援のこと
「猫のための小さなお家」では、シェルターさんの意向で、金銭的支援は現在、一切お断りをしています。理由はお尋ねしていません。尋ねない理由ははっきりしていて、僕だったら仮に訊かれても答えない。
いまいちばん求めていること
逆に、では、いまいちばん求めていることは何ですかと尋ねたところ、
シニア猫に対する理解と、できれば物資の支援です。あ、それより、時間のあるときに撫でにきてやってください。(元飼い猫の場合は特に)猫たちは人に甘えたくて仕方がないのですが、なかなか全員を十分にかまってやることができません。
とのことでした。ですので僕はほぼ毎週土曜日午後に撫でに行っています。たぶん、必要なのは、(たとえば上記のNHKの番組をみたときに刺激されるような)激情ではなく、静かな沈着と、持続する意志です。
いちいち愛情を注いでいられない
もうひとつ、シェルターさんとお話しをしていて印象的だったのは、
ねこは模様の違いだけで大した違いはないと思いますよ。
というフレーズに象徴される、諦念のようなものです。僕みたいに「はなちゃんくーちゃんちゃーちゃんこねこちゃんたち」とか言っていられない。言っていられる、つまりいちいち個別に愛情を注いでいられるのは、せいぜい、えーっと、合計1、2、3、456、6人くらいまででしょう。
だからといってビジネスとして見るのではない。でも、いい意味でビジネスライクに、引き受ける。引き取られる可能性がある、そのためには必要な愛情と責任をもってお世話をする。清潔な環境を維持する。そこは営利の人以上にちゃんとする(ここ大切なところだから点々うって)。それでないと、かつかつのシェルターは回していけない。
その、まあ君らITの人たちは読まんだろうがかつてマックス・ヴェーバーという人が「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」というのを書いてだな、それ的な、ある種の潔癖な実務精神と慈愛の一見矛盾するような結合を、俺はこのシェルターにじわじわと感じてきたわけです。
ヴェーバーはいきなりハードルが高いという御仁は大塚久雄先生からどうぞ。
物資支援はウェルカム
ポチって送ってください。できれば、月1回とかで定期的に。
ほしい物リスト「猫のための小さなお家 腎不全の食事療法食」です。
こちらは「ときどきあげているぜいたく品」です。
うえー高いと思ったでしょう。なめてんじゃねえぞてめえら俺のこれまでのテキストのどこを読んできたんだ。
「預かり宅さん」ネットワーク
きょうはこれくらいにしますが、この界隈では、実は「預かり宅さん」という、主にこねこちゃんの面倒を見るボランティアさんのネットワークが発達しています。次回は、その話をします。この、老猫版が日本に根付いたときに、俺は日本は動物愛護の点でようやく日本は英国並みになったのではないかと思います。街々に、老いたねこちゃんを看取るボランティアの家があって、慈しみ、お世話をして、感謝をして、虹の橋に旅立つのを見送る。
無理だろうなあ。
ま、ペットビジネスをやってる連中は地獄に堕ちてください。報道しっぱなしのNHKも何か感じたらシェルターに来てみてください。
追伸-こねこ
かっぱつw pic.twitter.com/BOSuncYfyW
— nekohanahime (@nekohanahime) 2016年5月28日
6/26(日)の里親募集会でデビューする計画で、ねこちゃんも、ボランティアさんも、動いています。気がかりなのは、ちゃーちゃんです。こねこを引き離すと、しばらく啼くらしい。シェルターさんは「ねこが3人もいてどうするんですか」と笑っていますが、避妊手術の後、シェルターで里親募集を行い、引き取り手が現れない場合には、自分で、という選択肢を比較的まじめに検討し始めています。