太宰の「かくめい」は、平易な文でありながら、指示語の取り方が意外に難しい。
じぶんで、したことは、そのように、はっきり言わなければ、かくめいも何も、おこなわれません。じぶんで、そうしても、他におこないをしたく思って、にんげんは、こうしなければならぬ、などとおっしゃっているうちは、にんげんの底からの革命が、いつまでも、できないのです。
しかし、いまの俺にはわかる。誰かのレシピを見て「うまそう」「作りたい」「これ作れるといいんだろうなあ」などといっているうちは、食生活は変わらない。スルメイカを(怯えながら)買い、足の抜き方、背骨の捉え方がわからないなりに、ワタを、イカスミ袋を選り分け、煮しめすぎて焦げる恐怖におびえながら、俺は作った。そのように、恥じ入ることなく表明できるのでなければ、俺の食生活は変わったとはいえないし、これからも変わることは望めない。そうだろ、太宰先生。
万能ネギを買い忘れた。代わりに自家製の白菜の酢漬けを添えた。イカは2杯買い求めるところを1杯しか買わなかった(だっていきなり2杯とか怖いし)。柚子胡椒を投入するタイミングを間違えた。イカスミ袋は使い途がわからず、ラップされて冷凍庫に眠っている。大根は半月ではなく、つい切りなれた銀杏にしてしまった。「大根に少し焼き色が付くまで炒める」加減がわからなくて悶えた。日本酒がなかったので赤ワインで代用した。
そのワタ捨てちゃ勿体ない!〜大根とイカのコク旨煮のレシピ - 今日、なに食べよう?〜有機野菜の畑から~
それでも作り上げた。お嬢がおいしいといってくれた。うむ、これは確かにうまい。こんなに色鮮やかなレシピを軽やかに公開してくれる姉さんは、やはり天才ではないだろうか。そして、男子厨房に入らずを是とする家訓に(またしても)背いた俺(41)。
惜しむらくは、スルメイカの匂いにはなちゃん姫が釣られなかったこと。それだけが革命の不首尾な点であった(途中、あんなにいい匂いをさせているんだもん、ちょっとだけ期待したんだけどなあ)。しかしながら、明日、残りを大切にいただけることを望みに、粘り強くパン生地をこねたいと思う。革命は続くのだ。
(追伸/本題)姉さん、とてもおいしかったです。ところでイカスミ袋、扱いに困ってとりあえず凍らせたんですが、どうしたらいいんでしょうか…
(追々伸)大根の風味になじんだ、冷えたワタがうますぎて、革命なんてもはやどうでもよくなるトカトントン。スプーンで掬ってちまちま舐めながら、ご飯お代わりした。