id:wattoさんのツイートから来ました。
「小雨」「氷雨」の「雨」はなんで「サメ」と読むのだろう。 - 爽風上々のブログ
大変に面白い。大好きです。ワタクシいまさらですが学位はありませんが高校時代を含めると30+年、品詞分解を在野の好事家として研究しています。今回、代表4例だけ引きますがこれ、ワタクシのような数寄(好き)者にいわせると直観的に「沖つ白波」「秋つ島」が連想されます。
「つ」は現代の「の」に近い連体助詞。奈良時代から盛んに用いられたというのが定説です(岩波古語辞典P.1484下ほか)。平安時代には衰えた。不安定なもので、用例の多い時期は短く、やがて衰える傾向にあった(同)。現代には「目つ毛」(睫毛)「わたつみ」(海神。ワタクシの愛する船橋市海神カイジンは、元は綿津海。海の神様です。ですので海神駅はトリトンのテーマが流れます)「下野」(しもつけ)などに姿を留めるのみ。
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話を戻して、haru-tsu-ame。これが、まず(1)母音連続を避けるためにuが落ちた。haru-ts-ame。次に(2)tが落ちた。それで(3)haru-s-ame。春雨以外も同じように説明可能です。(4)そこから先、これ以上sが落ちるとu-aと母音が連続してしまうためsはストッパーとして機能した。補論として(5)落ちるのはtでもsでもよく、sが落ちてharu-t-ame「春た雨」でもよかったかなと思います。こういうの(春た雨)が辺縁の古語に残っているのが見つかったりすると面白さひとしおです。
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以下は余談です。
(A)上方には洒落や方言交じりに「場合」を「ばやい」と読む例や地域があるそう(あるよう)ですね。ba-aiでいいところを、母音連続を避けるため(にか)、ba-y(j)-aiとなる。似た例はほかにもありそうです。
(B)中津川。これ、僕「長つ川」が古形のひとつではないかと想像してきました。土地と土地の間にある「中つ川」(境界の川。境川)がひとつ。もうひとつが「長つ川」(長い川)です。固有名詞は定着すると形が用言ほどには変わらない。バス停などにもその土地の地名の古形がしばしば残ります。
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取り急ぎ以上です。
追記: 荒稲(荒つ稲)なども、同様に説明が効きます。卒業論文などに育てるには、あとは時代と用例の考証です。「平安時代には衰えた。不安定なもので、用例の多い時期は短く、やがて衰える傾向にあった」(岩波古語辞典P.1448下。おそらく編集主幹である大野晋先生ご自身の説)が鍵を握るかと思われます。