illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

干し柿の話

うちには柿の木が、玄関から門塀に向かう右手、10本くらい植わっていて、それが毎年、実をつけるのだけれど、成り柿として甘いのは隔年かそれ以下、たいていは渋いのが6割7割で、始末に負えないのは、落ちた実をカラスが啄みにやってくる。

奴さん、きれいに食えばいいのだが、中途半端に残すものだから、門までの私道は、潰れた実の残りかすで、何ともえいない、嫌ぁな匂いを放つ。

*

そうした例年の行き送りの中で、渋い柿には使い途がふたつある。

ひとつは、干し柿

www.homarecipe.com

この人は天才なので、もうおれが何をいおうと違う次元の話なんだが、それにしても干した照柿(高村薫)の、実にいい色に仕上がっている。この、少うし水分を含んだあたりが勝負なんだ。干し柿は、干上がるまでに、何段階かの順序を踏む。

白い粉と、黴を見分けて、上手に、手で払う。

*

で、うまい干し柿になるかどうかは、紐と、途中の色合いを見ればだいたいわかる。「うそつけ」と思ったろう貴君ら?

残念だが、それは貴君らが柿を干さない家に生まれ育ったゆえに勘が働かないのでござる。おれら毎んち見て、静ーかに、いまかいまかと萎びて熟すのを待ってたから、出来具合が手に取るようにわかるのさ。

ホマレ姉さんとこは、あとはストーブをたきすぎたり、黴が生えたりしなきゃ大丈夫。

*

いまひとつは、柿の皮を天日に干すのさ。

庭に筵を広げて、柿の皮を、きゅうりを、かぼちゃの皮を、天日に晒すんだ。だいたい、干したきゃ何を干したって構わない。日差しと乾いた風が、いい具合に仕上げてくれる。

ホマレ姉さんはお書きでないが、干し柿は、剝いた皮というのが必然的に出ますわなあ。それを、糠に仕込んだり、天日に干したり、カレーの甘みにしたり、まあ、いろいろですねん。「うそつけ」と思ったろう貴君ら?(二度目)

柿の皮はうまいよ?湿気(しっけ)てても、乾いても、うまい。冬に上がったボケの皮を刻んだのと和えても、いい塩梅に、シーズニング(何のこっちゃない、ふりかけw)になる。

*

婆さんが、そうやってさ、11月12月から仕込んでくれた干し柿を、(腹持ちがあまりにいいので)食べきれないじゃん?もらって、2階の自室に持ってって、そのまま窓側に鎮座させて、(乾くと思ったのよ)黴させて、食べきれなかった。2月中旬。受験勉強の追い込みで、婆さん、アルツハイマーの初期症状にかかっていたんだけど、

「糖分をとりなさい」「寒くないかい」

って。手縫いの半纏を1階で肩にかけてくれて。おれは階段を上がった。

*

黴た干し柿を、何重にも、スーパーオータニの買い物袋に包んで、3月、早朝、沈丁花だか梅か忘れたが、が香る中、ごみステーションに持ってった。大学の二次合格の通知が届いたのは、それから間もなくのことだった。おれは控えめにいって、やはりしぬべきだと思う。

正直にいうなら、ずっと、そのことばかり四半世紀、冬が来るたびに思って手を合わせてきた。ネタ振りをさせていただいた格好になった、ホマレ姉さんには実に申し訳ない。