illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

As one of unforgettable keepsakes of this world

忘れないうちに、書き留めておきたい。

昨日のゴードンの、イチローへの惜別の手紙は、訳していて大変に味わい深いものだった。対価が発生していないのをいいことに、安い酔いに任せて筆が走った部分はある。それでも、僕の中にはひとつの感懐が残った。次の部分だ。

People don't know how much you've helped me over these last five years, Ichi. We both know I've had good times, bad times, ups and owns, but your friendship never wavered once. You always stuck by my side through anything, and always had my back. If I was wronged, you would stick up for me every time, even if it hurt you getting on the field.

時系列でエピソードを振り返り(すべてのパラグラフがそのような構成になっている)、重ねてきて、ゴードンは、ここで少し抽象的なトーンに転じて筆を運ぶ。僕は次のように訳した。

この直近の5年間、イチロー選手、あなたが僕をどれだけ助けてくれたか、僕にしかわからないことがある。僕の人生に、いい時、わるい時、浮き沈みがあったことは、あなたもご存じでしょう。その中で、互いの友情は微動だにしなかった。あなたはどんな状況でも、ぴたっと僕のそばについてくれた。そして絶えず支えてくれた。僕が不当な扱いを受けたときも、あなたは毎回僕の側に立ってくれた。自分がフィールドに立つのが辛いときでさえも。

僕はこの部分のことばを選んでいたときに目を潤ませていた。

*

黄金頭さんが、イチローの「第一線からの撤退」に際して、自分なら2つのことを尋ねたいと記している。

goldhead.hatenablog.com

  • 「引退を決められた、今、この瞬間、現役生活を振り返って、一番衝撃を受けたピッチャーというと、まず最初に、どの選手を思い浮かべられますか?」
  • 「野球の神さまはいると思いますか?」

*

ゴードンは、(少し、問いの形を改変せねばならないが)おそらく答えを知っている。一番衝撃を受けたバッター。野球の神さま。

*

黄金頭さんは僕よりも年は少し―少しか?―若い。けれど、彼が積んできた、書物や詩との格闘の質量は、あるいは僕よりも重い。先日、阪神競馬場でお目にかかった際にも、確か、社会論と哲学の本を携えていた。その遍歴は、たとえば、次のような箇所に見ることができる。

あの村は贄川宿奈良井宿の中間に位置するが、中山道には面していない。どちらの村の枝郷というわけでもなく、江戸時代に一種の在郷町として発展したと考えられるが、なにを生産していたのか曖昧模糊としている。しかしながら、山への入会権を独立した村と同じく割り振られていた記録が残っている。また、年貢として特産の「やらし菜」を納めたと記録にあるが、どのような野菜かは不明である。なにか別のものを納めていた可能性もあろう。また、江戸の大火で漆器づくりをする村は多くの財を得たが、そのような記録も残っておらず、あの村がなにを生産していたのかは謎に包まれているといっていい。しかしながら、特産品であるおまんの小豆を行商する者の旅の記録などにも、わざわざあの村に立ち寄っていることがわかっており、あるいはなんらかの信仰に関わる場であった可能性もある。

kakuyomu.jp

なんだかんだいって、僕に「やらし菜」は出ない。だが、ここに「やらし菜」があるのとないのとでは風景が180度変わってしまうことは断言できる。そのあたりが、僕の限界だ。僕は大まかに哲学、中世古文、文芸批評、近現代思想史、詩歌、現代散文、という順で人文を習い、身につけようと努めた。必ずしも創作者になろうと思ったのではなかった。僕は生来の読者である。だから僕が創作者の顔をしているときは、苦々しい顔つきをして共産党に票を投じるときの悪い僕だ。

*

ゴードンは、イチローと打撃練習ができた。内野と外野とでは離れているが、同じフィールドに立つこともできた。文芸は違う。高い山に登り、隣の離れた山の頂きに目を遣る。けれどほとんどは、霧や雲に遮られて、隣の山の登山者は見ることができない。そもそも、その余裕もないことが大半だ。

千回か、万回に一度、首を振って目に入った人がいた。こちらも余裕がないから、その細部まではわからない。それでもその技術の卓越は一目で伝わるものがある。

kakuyomu.jp

4月7日(日)、黄金頭さんが現れないことは考えにくい。僕はゴードンがイチローを待ちわびた様式に倣い、30分前、当日9:30に、現地入りしようかと saying to myself, 心ひそかに思っている。このことは、むろん、彼には内緒にしてほしい。