illegal function call in 1980s

1980年代のスポーツノンフィクションについてやさぐれる文章を書きはじめました。最近の関心は猫のはなちゃんとくるみちゃんです。

枕草子 清水に籠りたる頃

(二八一段)

清水に籠りたる頃、茅蜩のいみじう鳴くをあはれと聞くに、わざと御使しての給はせたりし。唐の紙の赤みたるに、

山ちかき入相の鐘のこゑごとに戀ふるこころのかずは知るらん

ものを、こよなのながゐやと書かせ給へる。紙などのなめげならぬも取り忘れたるたびにて、紫なる蓮の花びらに書きてまゐらする。

原文『枕草子』全巻

(試訳)

清水寺に参籠していた折、ひぐらしの鳴き声がしみじみと季節を響かせていたときのこと。中宮様がわざわざ遣いをよこして下さいました。赤みがかった唐の紙に、

山ちかき入相の鐘のこゑごとに戀ふるこころのかずは知るらん

(山近く日暮れの鐘の響く数/あなたを思う―ご存知のはず)

それなのに、ずいぶんと長い参籠なのですね、とありました。失礼にならない紙の持ち合わせながなかったものですから、紫の蓮の花びらに返歌を記して遣いに持たせました。

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枕草子には、こういう、中宮定子と清少納言との間で交わされた、微妙な心の綾のやりとりがいくつかあります。また、紫式部も、同じ冒頭「清水に籠りたる頃」で始まる断章が、確か日記にあります。

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おそらくこれは、中宮がなくなってから清少納言追想したもの。清少納言は入相の鐘を聞いて、同じことを思っていたのでしょう。