惜しまるる涙にかげはとまらなむ心も知らず秋はゆくとも
惜しまるる涙にかげはとまらなむ心も知らず秋はゆくとも ★別れを惜しむ涙の中にあなたの面影はとどまるでしょう。私の心も知らず、秋は過ぎてゆこうとも(私に飽きてゆこうとも)。
— 和泉式部bot (@izmskb_bot) September 1, 2018
天才ですね。おそるべし。
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- 惜しま:マ行四段活用動詞「惜しむ」未然形。残念です。つらいです。
- るる:自発助動詞「る」連体形。自然に(意識や気持よりも先に)涙が。
- 涙:名詞
- に:理由/原因/場所の格助詞
- かげ:名詞。光。姿。おもかげ
- は:係助詞。季節や気持ち「は」流れていってしまいますが、貴方の姿「は」(とどまる)。「は」の用法は本来このようなもの(他のことはさておき、これこれ「は」)ですね。
- とまら:ラ行四段活用動詞「とまる」未然形。とどまる
- なむ:希望願望の助詞。(せめて)~であってほしい
- 心:名詞
- も:係助詞。おそらく、強意
- 知ら:ラ行四段活用動詞「知る」未然形
- ず:打ち消し助動詞「ず」終止形
- 秋:名詞。「飽きる。心が離れる」との掛詞ですね。いうまでもないですね。(現代人には殊更にいう必要がある。なぜなんだ)
- は:前掲
- ゆく:カ行四段活用動詞「ゆく」終止形。過ぎていく。
- と:係助詞。変化、あるいは変化の結果、などと一般には語釈されます
- も:係助詞。詠嘆
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訳します。
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惜別の涙が自然にこぼれてきます。
せめて面影は流れずに涙の中にとどまってくれたなら。
(それなのに)私の思いも知らずに「秋も終わりだね」だなんて。
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惜しまるる涙にかげはとまらなむ心も知らず秋はゆくとも
この歌は好きとか嫌いとか別れとか貴方とかひとこともいっていないですね。
それでもどう読んでも好きとか嫌いとか別れとか貴方への歌なんですね。
たとえば、オフコースの「さよなら」冒頭の「もう終わりだね」にこの伝統は受け継がれてゆくわけです。
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それだけじゃないんです。この歌は和泉式部がある方から頼まれて詠んだ代作です。ある方というか、かなり最低なんですが(依頼者側が)。
和泉式部の才能と技術は、そういう現世的関係を上回ってしまいます。
まあ、本気で詠んだのではないと思います。さらっと、まあ、おそらく、余技です。けれど、余技であり、わがことではないからこそかえって、彼女の才能は伸び伸びと発揮された。そういうことが、文芸にはあるのだと思います。