僕、知らないんですけれどもね。熊野詣は行ったことないし(中上健次を読んで夢想しただけ)、岩田川が三途の川と見做されていることも、民俗学の知識の上だけです。
きょう暑いすな。夕涼みがしたいす。うん。それで思い出した、
久しぶりに品詞分解をする。
- 松が根:枕詞。「岩」を呼ぶ
- 岩田:名詞。岩田川 岩田川・岩田:熊野の歌
- の:格助詞
- 岸:名詞。「岩田の岸」(名詞)で一語ととって別段構わない
- の:格助詞
- 夕涼み:名詞。これはもっとも美しい夏の日本語のひとつであります。夏野夕涼(モデル。いないけど)ありです。
- 君:名詞
- が:格助詞。「が」は「我が」などというときに残るように、自分に親しい気持ちを話者が我知らず込めるときの話法です。「君のあれな」も文法的には成り立つ。でもそれでは遠い。詠い手、西行は(おそらく自然に口をついて)「君が」という。君とは、史実では終生の友とされる西往上人のことを指す。けれど、会いたくて会えない君を三途の川の辺(ほり)りで待つ、受け手の内面を喚起せずにいられない。西行→西往の関係を、読者は自分(読者)→だれか会いたくて会えない人、の関係に思わず重ねてしまうことだろう。
- あれ:ラ行変格活用動詞「あり」已然形。あってほしい。
- な:念押しの助詞。
- と:接続助詞。引用。
- おもほゆる:ヤ行下二段活用動詞「思ほゆ」連体形。連体形であるのは下の「かな」に接続するため。
- かな:終助詞。詠嘆。これは訳すことばではないです。
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BLだ。つまんない歌なんですけど(まーた、不幸にも黒塗りの高級車に)、そうじゃないんですね。内面と、(硬くした、もとい、仮託した)風景の絶妙の配合が、5:5くらいでしょう?
- 松が根の岩田の岸の夕涼み
- 君があれなとおもほゆるかな
ほれ。掘れ。ほれほれ。
和歌は、意味ではなく、風景であり、情景であり、響き、なのであります。「いまここに、君がいてくれたら」。ただそれだけを、風景にけしかけられ、あたかも絵葉書のように、書き寄せる。これ、もらった(こと/言寄せられた)西往は、きっとどんなにかうれしかったことだろうと思います。あっー
松が根の岩田の岸の夕涼み君があれなとおもほゆるかな(西行)(玉葉)
— nekohanahime (@nekohanahime) July 15, 2018
熊野詣、岩田川の岸辺。夕涼みに君がいてくれたらと、ふと思っています。