口直しをします。
眺むらん空をだに見ず七夕にあまるばかりの我が身と思へば
眺むらん空をだに見ず七夕にあまるばかりの我が身と思へば ★あなたが眺めておられる空など見る気にもなりません。織女と比べたって余るほどの思いを抱えた私ですから。
— 和泉式部bot (@izmskb_bot) 2018年1月20日
当世風にいえば「エモい」なのですが―エモ・ボール―だって今日びは通じないのでしょう? もう私とっくに諦めました。何を諦めたかって、和泉式部のこの歌は、いまの人たちが使う意味のエモいにぴったりだと思うのだけれど、この歌をひとめ見て「あ゛ー」と思ってくれる人は、まずいない。
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仕方がないのでお手紙書いたさっきのお歌の和訳はなあに。
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だめです。和訳の前に品詞分解です(ちなみに、こういう品のいい、技巧と情感の相寄り添った歌を、二次試験に出すべきなんだ)。
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- 眺む:マ行下二段活用動詞眺む終止形(らむ/らんの上は終止形です)
- らん:現在推量助動詞らむ終止形(らむ→古い形。らん→少し時代の下った形)自分のいる場所とは離れているところで今起きている事象を「きっとこうでしょう(ね。ぷんすか)」と想像するときに使います。遠距離恋愛の男が女を、女が男を。あーめんどくさいw アルフィー「星空のディスタンス」ってありますね? あれですあれ。この助動詞めっちゃ重要なので力入れて書いた。で、えっとね、あーもう! 七夕の距離感の伏線なのよ(←野暮だw)。
- 空:名詞。七夕の縁語
- を:格助詞。目的格
- だに:副助詞。現代語の「すら」に近いニュアンス
- 見:マ行上一段活用動詞見未然形
- ず:打消の助動詞ず終止形
- 七夕:名詞。空の縁語。ここでは詠み手が女性ですから織姫。そう書かないところが技(これが野暮)
- に:格助詞。時間や場所を表す
- あまる:ラ行四段活用動詞あまる終止形(ばかりの上は連体形か終止形か学説が定まっていない)
- ばかり:副助詞
- の:格助詞
- 我:名詞
- が:格助詞。現代語では「の」に近い
- 身:名詞
- と:格助詞
- 思へ:ハ行四段活用動詞思ふ已然形。「(なになにすれ)ば」の上は已然形
- ば:接続助詞。確定条件。「なになになので」。現代語のifからは遠い意味です
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(貴方はいま空をご覧になっていますか)(私は貴方を思いながら見ているのですけれど)空などちらとでも見るわけがありません。織姫が彦星を思う以上(比べものにならないくらい)の我が身ですから(見たら燃えてしまいます)。
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平安宮廷には腐女子がいるわけですよね。赤染衛門とか。清少納言とか。紫式部とか。私この歌前々からいいと思っていて。彼女たちが「キャー」「切なくてマヂもう無理…」「(紫式部)あの人ちょっと男関係に問題が多いから(小声)」とかTweetする姿が目に浮かぶ。普通は浮かびません。
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まあ、和泉式部といえばこれ、
「とどめおきて」なんですけどね。ほんとに、技巧という点では完璧です。
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で、めんどくさいのでw 結論だけ放り投げます。「眺むらん」も「とどめおきて」も、現在推量の助動詞「らむ」が鍵を握っている。いまここにはいない、離れた愛しい人を歌う。
和泉式部こそ、遠距離恋愛の歌の名手である。あーもう! 野暮は嫌なんだ!w
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(id:kikumonagon さん、助けてください…w)