万葉集巻7-1197詠み人知らず(雑歌羇旅)に、
手に取るがからに忘ると海人の言ひし恋忘れ貝言にしありけり
(※あー、これほど美しい歌を前に、オチまでやりたくないんだ本当は)
数ある万葉の雑歌、羇旅、詠み人知らずの中でもこれはわが筆頭、声に出すと少しつっかえつっかえで読みにくいところはあるんだけれど、その漢字と仮名の配列ったらない。結句の解釈も実に万葉の人のものの感じ方、言い様というものを表し、そして今日に伝えている。
北限の海女さんのイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや
まず品詞分解。
- 手(名詞)/に(格助詞)/取る(ラ行四段活用同士「取る」連体形)/が(格助詞)
- から(格助詞。~するとすぐに)/に(格助詞)/忘る(ラ行下二段活用動詞「忘る」終止形)/と(接続助詞。引用)
- 海士(名詞。あま、と訓ず。イラストは女性を引いたが、衛士などにもあるように、男性かな)/の(格助詞。主格)/言ひ(ハ行四段活用動詞「言ふ」連用形)/し(直接体験過去助動詞「き」連体形)
- 恋忘れ貝(名詞。二枚貝の片貝のこと。「磯の鮑(あわび)の片思い」など。もちろん鮑以外も)
- 言(名詞。ことば)/に(格助詞)/し(副助詞。強意。言葉では確かに、そう)/あり(ラ行変格活用動詞「あり」連用形)/けり(詠嘆の助動詞「けり」終止形)
続いて訳。そんなに難しいところはない。
「手に取ればすぐに忘れる」と海士が話していた恋忘れ貝。
確かに言葉ではそうなんだけどね。
受験古文的に「言にしありけり」を「言葉であったのだなあ」なんて解釈のお手本通りに訳してはわからない。万葉を数読みこなして、《海士の言った通りなのか》《海士の言ったことは当たっていないのか》怪しいと立ち止まれるようになればしめたもの。そう、かつて大学である先生が教えてくださった。
「忘れ貝だなんていって、言葉だけじゃんかよう(つらい)」くらいまで、拗ねて訳してみてもかわいい。
それで、上にも書いたけど、(恋)忘れ貝は、二枚貝のこと。現代では鮑が代表格に収まったようだけれども、昔は二枚貝であればだいたい何でもよかった。いつかは番(つがい)になる願い。なれなかったときには忘れさせてくれる。次の恋の準備を。
*
さて問題だ。
昨今、粋人の頭を悩ませるのがこれ。
A さんに謝罪をし、二度と同じことを起こしてはならないと考えそれからしばらくは、性交渉をもつことをやめ、A さんと会う際はお茶や食事のみに留めるようにしました。
しばらくして、再び A さんと性交渉に及ぶ機会になった際
俳人id:naoya氏の書いたリベンジポルノに対するアンサーブログについての感想 : オティンティンミサイルゴーズオン!
敬意を表して(あー、やっちまったよw)、引用は原典ではなく、大先生のところから。
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俺の仮説は次の通りだ。
おそらく、「な」さんという人はよほど辛かったのだろう。辛い、もう恋だか恋じゃないんだかわからなくなっちまった気持ちを忘れたいと、手を伸ばした。わらにもすがる思いで手をかけたんだね。それは間違いじゃなかった。
各々、クリックしてほしい。わかる方は、しなくていいから。
まじないでは、殻のほうに手をかけなきゃならなかった。それが野郎、身のほうに手をかけちまった。
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つらい。書いて損をした(笑)。口直しに、次の1冊など。もちろん、貝も、出てくる。
追記:
不吉を耳にした、口にしたときには鉄を触るなんていう作法がイタリアにもあるらしい。
たまたま、きのう、外でご飯食べたときにやってたのを思い出しました。