まだ続きはある。
やがて用意が出来た。石田は志ん生の大好きな酒を振る舞い、奥さんも、有名な客がお土産までもって来たと思って、とても喜び、肉も、酒もしきりに勧めてくれた。
石田は志ん生の肩身を広くして、奥さんの前で恥をかかせず、遠慮なく飯を食わせてやろうと、取りつくろってくれたのだ。志ん生は心の中で手を合わせた。ありがたさに食事中、涙がどうしてもこみ上げてくる。涙を奥さんに見せないよう天井を見上げ、巧みな話術と仕草でごまかし、あくまで悠々とした態度を演じた。
食事がひと段落つくと、石田は志ん生に内地に持って行ってもらいたいと、ふとん、洋服、毛皮の襟のついた外套を取り出して言った。
「志ん生さんが持って行ってくれれば安心だ。私が内地に戻ったら、もらいに行きますからそれまでこれを着ていてください」
さらに、帰り際、石田は「さっきの肉のお礼に家内から」と1,000円の金を出した。志ん生は一瞬迷ったが、芝居を演じ切って、「かえってご迷惑を、それでは」と鷹揚に懐に入れた。
帰国が決まったとき、志ん生は石田の家に駆けつけた。石田は喜び、付け焼きの餅をたくさんくれた。
志ん生は無事帰国して石田の息子を探し出し、両親の健在を知らせた。息子は大喜びした。
川村真二「その恩の重さは、月とスッポンほどの違いがある」(日経ビジネス人文庫『働く意味 生きる意味』P.48)
※「1,000」の部分は、横書きに合わせて引用者が算用数字に書き改めた。ざっくり50万円から100万円の貨幣価値でごじゃる。ま、石田紋次郎がけちくせえことをするはずがない。ひとこえ100万円だろう。といいてえところだが、肉のお礼のお札(1枚?)だから推し量るのは難しいね。
働く意味 生きる意味―73人のみごとな生き方に学ぶ (日経ビジネス人文庫)
- 作者: 川村真二
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川村真二さん、いまどこで何をなさっているのか。つまんねえ本も書いているみたいだけど、もうちょっと読者の「筆の乗り」を見る目を信じていいんじゃねえかという気がする。この偉人伝のアンソロジーは、間違いなく、乗っている。
月とすっぽん鍋 - illegal function call in 1980s
当時の人は話のスケールが違うねえ! さあ持ってけ・・!
2016/09/27 07:43
師匠、実はまだ続きはあるんだ。ふっふっふ。