元歌
#003
あしひきの山鳥の尾のしだり尾の長々し夜をひとりかも寝む
単語に切る
あしひきの|山鳥|の|尾|の|しだり尾|の|長々し|夜|を|ひとり|か|も|寝|む
品詞分解
あしひきの(枕詞、山を呼ぶ。山鳥ではなく、山)
山鳥(名詞)
の(格助詞)
尾(名詞)
の(格助詞)
しだり尾(名詞。しだり+尾ととる場合、しだり=ラ行四段活用動詞「しだる」連用形。「食べ物」のように、連用形+名詞はある)
の(格助詞。例示、比喩)
長々し(シク活用形容詞「長々し」連体形。形容詞の連体形はふつう「き」で終わるもの=「長々き」なのだのだが、古形は終止形と同じ形で連体形もあった)
夜(名詞)
を(格助詞)
ひとり(副詞。「一人で」「一人寝」の用言「寝(ぬ)」に係る)
か(疑問/強意/詠嘆の係助詞)
も(不確かさ/不安の係助詞)
寝(ナ行下二段活用動詞「寝」(ぬ)未然形。なぜ未然形かというと推量の助動詞「む」は未然形の下につくから)
む(推量の助動詞「む」連体形。なぜ連体形かというと係助詞「か」を受けるから。本記事内で口述)
知識事項
・枕詞は、何か特定の言葉を呼ぶためのおまじない。決まり文句に上下セットがあるとして、上のほうが枕詞。あしひきの→山、たらちねの→母、草枕→旅、久方の→光など。かいつまんでいえば、おまじないの長いのが序詞。短いのが枕詞です。
・「こそ已然/ぞ・なむ・や・か連体形/これ【ぞ】係り結び/なり【ける】」これが係り結び。上下で挟んで意味を強める。禁止の「な~そ」なんかと兄弟関係にある(大野晋節)。ちなみに勿来(なこそ)は、ここから先は来てはいけません、という境の場所です。福島の事故以来、いいにくくなったとは知り合いの古文の先生の弁。「な忘れそ」=忘れないで。「な泣きそ」=泣かないで。
・同じ係助詞でも「か」は積極的に怪しいと思う気持ち。「も」はどうかなあ、微妙だなあと不安寄りの気持ちを表す。「かも」で一語でよいという説もある。
・格助詞「の」には、例示や比喩比況といって、「のような」「のように」の働きもある。例えば「空の青」って、「空が持っている青|空のような青さ」両方の含みがあると思いませんか。
解釈
足を引くような裾の山。(その山の)尾長鳥(訳注:オナガドリ=尾長鶏ではない。オナガドリは江戸期までいません)。そして(その尾のような)長い夜。私は一人で寝るのかな。どうかな。
異端説
この歌、うまいといわれるんですけど、僕はつまらない歌だと常々思ってきました。山→鳥→尾→長いと畳みかけるのは、なるほどなと思いますし、切れ目でリズムが変わるのは確かに楽しい。またちなみに、かも寝むのかもには、万葉仮名で「鴨」が当てられています。通説ではそこまでいわないはずですが、ここまで読み込むなら、山鳥→鴨で収まります(ほんとかなあ)。
でも、腑に落ちないんです。王朝確立期の大歌人といわれる人麻呂の、ほかにも秀歌はあるだろうに、どうしてこれを定歌は採用したのか。しかもですよ、天皇お二方の次、序列第3位にもってくるような歌なのかな。ま、嫌いです(笑)。旅先でおっさんが「おれ一人で寝るんだよなあ」ってぼやいてる歌。どうなんだこれ。
余談
で、以下は僕が思いついた大人の笑い話。
柿本人麻呂秘宝館説。「引きずるような尾足。長くて長くて、今夜もひとり持て余して俺は…」云々。尾は交尾の尾から察してくださいませ。(ごめんなさいw)