タイトルは釣りです。しかし羊頭狗肉にはしないつもり。とはいえ、たびたび申し訳ございません。
なぜか最近、この拙ブログの読者さんが増えてくれています。間違いなく、はなちゃんとくーちゃんのおかげです。ありがとうね。
はなちゃん🐱しゃがんで同じ目の高さでもわりとだいじょうぶになったねー🐱ありがとうね🐱 pic.twitter.com/qiaZE9GNLv
— nekohanahime (@nekohanahime) 2016年3月30日
久しぶりに山際淳司の話をすることにしました。
山際さんというのは不思議な人で、彼が現役のスポーツライターとして活躍していた80年代後半からいまや30年が過ぎようとしているのに、現代のスポーツと文化をテーマに何かを考えようとすると、必ず何かしらの手がかりを授けてくれます。
きょう取り上げる作品は、「異邦人たちの天覧試合」。
山際さんというと「江夏の21球」「たった一人のオリンピック」がウェブでよく言及されています。それに比べて、「異邦人たちの天覧試合」は言及される機会が少ないようです。でも、これは名作。ある意味、山際ノンフィクションのベストです。
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昭和34年6月25日。先の天皇陛下が後楽園球場の貴賓席にお出ましになった日です。天覧試合。阪神対巨人のこのゲームのラストボールを知っている人は多いでしょう。長島茂雄が村山実の投じた1球をレフトポールに叩き込んだ、徳光さんが涙を浮かべるあれです。近年はこれで通じないのかな。
では、と山際さんは問います。「プレイボール直後に投じられた1球を覚えている人は、どれだけいるだろうか」。この着眼だけでも卓越しているのに、彼はそこにもうひと味を絡めてきます。それが「異邦人」です。それぞれの事情があって純粋な日本人ではない立場でゲームに参加することになった監督(例えば、カイザー田中)やプレイヤー(例えば、王貞治)の、第1球にたどり着くまでの道のりを、インタビューと叙述を巧みに配して構成します。
実は、14年の夏にも、このブログで書いています。ただ、下手。思い余って前のめりになっていて、とても読めたものではない。それでも、印象的な部分を引用しています。雰囲気を味わうのには少しは役に立つかもしれないと、恥ずかしながら、貼り付けました。
彼らはそれぞれに、第二次世界大戦を中心とした、歴史性と複雑なナショナリティから内面を形成し、傍からはみえないように、天覧試合というゲームの中で日米、あるいは日韓を、日台を、静かに戦わせている。
おそらく、昭和天皇ご自身が、そうでした。
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もうひとつ、補助線を引かせてください。
桜井哲夫先生が、「日本人ではないからこそ、日本的なイデオロギーに過剰に適応しようとすることがある」というテーゼを出しています。例えば、野球道。若き日の王貞治は、日本刀の真剣で、畳の部屋で素振りを繰り返します。台湾出身の華僑、拉麵屋の倅というアイデンティティを持つ彼は、日本人以上に日本的であろうと努めたというわけです。
未読の方は、ぜひ読んでみてください。短い断章から構成されて、つまみ読みも出来る、とてもおもしろい本です。
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時代は下り、60年代に見られたような過剰反応を、示す必要のなくなった(表面的には、かもしれませんが)スポーツ分野が増えたように思います。ジェシー高見山大五郎と、旭天鵬勝の時代では、多少なりとも何かが変わったのでしょう。たとえば、次の日刊スポーツの記事は、非常に複雑な思いを抱かせてくれます。
日本人(主語大きすぎ)は、溶け込んでくれる異邦人が好きです(たぶん)。実は、という母国アイデンティティを示すのは、それからでいい。溶け込もうとした痕跡をまず見せてくれれば、日本人として遇し、「いや、実は俺はね」といってハレの場に御母堂を連れてきてもイイヨイイヨーとなる。
皮肉ではないです。このシーンは、僕が物心をつけてまだ間もないころにテレビと新聞で見て、ジーンときた、ジャパニーズベースボールに対する原風景に近い。
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白鵬関の、生の声が聞きたい。ご本人は受け入れがたいかもしれないけれど、涙の謝罪会見とか、すればいいのにと思います。潔く頭を下げて(演出することが大事)、「自分も、日本人になろうと精進しましたが…」で、言葉を詰まらせて涙を流す。響くフラッシュ音。しばらくは、バッシングが続くかもしれない。
それでも、俺たちは、基本的に根に持つことが苦手な体質。ちょろちょろと少しずつ水に流して、75日もすれば「なんだ、いいやつじゃん」「北の湖のほうがよほど憎らしかった」「それに引き換えドルジの野郎は」「心入れ替えてがんばりや」云々って。
ならないかな。
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追伸:
高見山が現役引退を表明した頃、日本相撲協会を管轄していた森喜朗文部大臣(当時)が、昭和天皇より「髙見山がなぜ辞めたのかね」「髙見山は残念だったろうな」との下問を受けた。そのことを後に森が髙見山に伝えると「もったいないです、もったいないです」と涙を流したという。
このエピソード、とても好きです。
(…しかし森元の野郎は抜かりないな…)