ヘーゲル/ジラール/ラカンに「欲望の三角形」というのがある。3人ともめんどくさいので日本人には西研が手頃だろう。
西研すらめんどくさいという健全な皆様は3分だけ小話にお付き合いを。
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部屋に赤ちゃん2人A、BとおもちゃXを置いておく。ABともにXには興味を持っていない。ところがふとした瞬間にAがXに興味を持って「これは僕のだ」と主張する。と、Bは「いや実はXには小生前から目をつけていた。僕のでござる」と主張を始める。A「拙者のが先でござる」B「いや拙者こそ」。人は他人が肯定し、目に見える形にした欲望を欲望と認識して、欲しいと思うようになる。ABXの作る形が「欲望の三角形」と呼ばれるものだ。
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ある家に男の子がいた。そこに弟が生まれる。男の子はそれまで「お母さんなんか嫌いだ」といっていたのが弟が生まれた日を境に「ママは僕のものだ」といいはじめる。弟が夜な夜なママのおっぱいを吸うのを寝たふりをして見る男の子。嫉妬の炎は火力倍増である。
ある日男の子は思う。「弟がいるからいけないんだ。いっそひと思いに。でもどうすればいい」。男の子は考えた挙句に毒を盛ることを思いつく。薬局を訪ねお遣いだと偽って劇物を入手。ママが寝ている隙に水に溶いた劇物をおっぱいに塗る。「これで明日朝目覚めれば弟はいない。ママは僕のものだ」。
翌朝、お父さんが息絶えていた。弟はぴんぴんしている。
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科学的精神に富む男の子は再現検証をしなければと思う。ふたたび薬局を訪ねて劇物を手にし、その晩、ママのおっぱいに。男の子は今度こそ弟よいなくなれと思いながら、深い眠りについた。
翌朝、何やら騒がしい。騒ぎは家の外から聞こえてくる。
見ると、隣の植木屋さんが死んでいた。
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志ん生艶話だったか、談志だったか、談志が引いたフランスの小咄だったか。吉田茂が戦時中に大磯の別邸に志ん生を呼んでお忍びで楽しんだ話だったか。
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はなちゃんが久しぶりにはしごを上りロフトへ。下僕は素知らぬ顔ではなちゃんが降りた後のロフトに上がり、ベッドを確かめる。やはり。
はなちゃんはうちに来て気持ちが落ち着いてからは、ロフトに上がることがなかった。暑さのせいもあると思う。くるみちゃんがやってきてくれた初日の昨日、はなちゃんはくるみちゃんにご飯の順番を譲り、窓辺の場所を譲り、僕にアイコンタクトを求め、くるみちゃんにはわからないように目を細めてくれた。
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そんなわけで今朝、布団を念入りに干した。干しても多少は匂いが残るだろう。はなちゃんが安心するのなら、それもわるくないかなと思う。