あぐりさんの倅はとんでもない野郎だ。「砂の上の植物群」とかミソジニーとかのことを指しているのではない。古来、母親に先立つ以上の不孝はない。
90年代の前半にやり残したことのひとつが岡山の美容室を訪ねてあぐりさんに髪を切ってもらうことだった。そのころお元気でまだ週に数回は美容室に立つと何かの折に聞いた。作家/詩人としての評価は必ずしも高いとはいえないエイスケ氏の過ごした時代背景から、俺は荒地を知り、上海を知った。新感覚派もがまんして読んだ。吉行から檀を知った。そういえば開高のおっさんへと導いてくれたのも吉行だった。俺にとって戦前戦後の思想史へと入っていくことになる水脈の細い1本はまちがいなく淳之介=エイスケであった。
そういったことをおくびにも出さず、ただ、俺は岡山に足を運び、吉行本家を眺め、あぐりさんの美容室に行って帰ってきたという満足感を手に携えて帰ってきたかった。
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